〈令和6年2月23日投稿〉
2月上旬、以下のような匿名のメールが届きました。
〈転載〉
お願いです。
市内路線除雪について、降雪時に道路の除雪を未だにかき分けといい、間口に道路の雪を堆雪させていく方法を何十年も行っています。
住宅街では、空き地もないので、敷地に溜めて、自分達でお金を払って排雪を頼んでいるのが現状です。なぜ、路線により道路除雪の雪を市民がお金を払って、別に排雪をしなければならないのですか?
現行のやり方で、市民が金銭的にも負担を強いられている現状を把握する必要があるのではないかと思います。
市内の町中でも場所によっては、有料駐車場の雪を道路に積み上げ、道路を狭くして、市の排雪にまかせているような事をしている人達もいます!
市民が負担のない行政サービスを受けられる様に、最低限、排雪費を補助するべき!いい加減にしてもらえるように、して頂きたいです。
倶知安は、市民税も岩見沢より高いが、間口に、融雪溝があるので、置いていかれる雪の処理場所を提供している。
それに比べて、岩見沢は、何もせず、何十年もやり方を変えられないのは、なぜならでしょうか!
行政サービスが、市民の負担にしかなっていない事を改善して頂きたいです。
宜しくお願い致します
この様なお話はこれまでも良く聞かせていただいており、以前、議員になりたての頃に多少整理して掲載してみたことがあるのですが、随分と時間がたったこともあり、改めて考えを整理してみたいと思います。
*この様なご連絡をいただくことで改めて自身の思考を整理したり、また、この様に情報の発信に繋げることとなり、大変ありがたく思っています。若干長文になりますが、考え方のひとつとして多くの皆様にご覧いただければ幸いです。
今回いただいたメールによる疑問としては
1)どうして道路の雪を間口に置いていくのか
2)その置いていった雪をどうして市民が処理しなくてはならないのか
3)処理を委託する場合、どうして市民が自腹を切らなければならないのか
4)民地の雪を道路に出している人をどう考えれば良いのか
5)融雪溝等を整備できないのか
6)岩見沢市が何十年もやり方が変えられない理由
ということに分けられると思います。
それらについて、私の持ち得る情報下のあくまで私感ではありますが、掘り下げてみたいと思います。
1)どうして道路の雪を間口に置いていくのか
岩見沢市の除雪は全市一斉出動すると、ひと晩で車道約963km、歩道142km(R5年)という膨大な距離になります。また除雪車が数回出動すると、道路の両脇に高い雪山ができて幅員が狭まるので、バス路線や排雪場へのダンプトラック運搬経路は適宜運搬排雪が必要です。これらにかかる費用合計が年間14.5億円(R5当初予算)となります。また大雪に見舞われた場合は補正予算が組まれ、下表のように20億円を大きく超える年もあります。
日本全国どの地方都市もほぼ一様ですが、人口減少や少子高齢化が進み、今後の行政サービスの維持困難化が懸念される状況下、現状の岩見沢市の財政状況としても除排雪に今以上の多大な費用をかけるためには他の行政サービスを縮小しなければならず、そのバランスを取ることは非常に難題となります。
さて、現時点で岩見沢市内に雪が降り、夜中に一斉に市道の除雪作業が行われるとすると、前述のとおり車道除雪延長963km、歩道除雪延長142kmの膨大な作業を朝7時までに完了するために、タイヤショベルが約170台、歩道除雪用車両で更に22台と約200台ほどの重機が一斉に出動していることを想像してみたいと思います。そこに助手が同乗する必要なケースも含めると約230人(排雪は除く)が深夜に重機に乗ってくれているということを考えると、改めて岩見沢の除雪体制の尊さを感じます。(ちなみに、この数字はあくまで市道除雪のみなので、市道排雪、国道、道道、民間駐車場や間口処理業者等々を入れるとどれほどの台数になるのか見当もつきません)
そこでもし「市で全戸の間口処理を行うとしたら!」と考えてみると、間口の前に存在する物体としての雪を移動させるため、雪を押し込めるような堆積場を住宅街の中にこまめに確保しなくてはなりません。またその分、一度に移動できる雪の量は限られるため、何度も行ったり来たりしなければならず、除雪にかかる時間はざっくり倍~数倍になると思うので、その除雪用タイヤショベルの台数も現行では不足し、最低でも300台以上は必要になるのかもしれません。
また、住宅街の中に空き地がなく堆積場が確保できない場合は、ダンプトラックでタイムリーに排雪する必要があり、そうなると除雪用のショベルの他に、別途積み込むための重機とダンプトラックがセットで必要となり、雪堆積場の数も増え、なおかつ深夜稼働もしなければならない状況となります。
また、例え住宅街に堆積場を細かく確保できたとしても、延長約180mぐらいの1区画の生活道路の中に100坪ぐらいの空き地だと、恐らく数回の新雪除雪出動ですぐに飽和状態になってしまい、シーズン中に何度かは雪を運び出して排雪する必要が出てくると思います(春先の搬出と・・)。
これらをざっと想像するだけでも、作業に従事する必要人材も現在の数倍という物凄い数となり、現時点で人手不足と言われる状況下、「冬季夜間作業」で「高度な技術を要する従事者」を確保できるのかどうかと考えるとかなり難しいと言えます。
そして、例え人材が確保できたと仮定しても、必要とされる費用も現在の倍では効かず、もし倍で済んだとしても当初予算で約30億円、恐らく到底倍では済まないと思うので3倍だとして約45億円、大雪になったら更に補正予算が必要となり、約70億円などの支出(これらの数字は、あくまで数値的な計算根拠はなく、イメージしやすいように自身の経験の中でのざっくりと想像した範疇の数字であることをご理解ください)になるとすれば、岩見沢市の財政は持続可能な状況とはかけ離れた状況になってしまいますし、これらを市民負担にすべく市民税を上げて・・・となれば、いくら0か100かという極端な解決策ではなく、その負担割合はグラデーションで検討できるとは言え、至極困難な事態であることは間違いありません。
*ちなみに岩見沢市の当初予算は令和5年で466億円、令和6年(案)で482億円となります。ただでさえ経常収支比率は北海道でも最下位に近い位置にあり、全国類似都市「Ⅱ-1」分類でも46市中46位という厳しい状況。この中から更に多額の費用が除排雪事業に支出されるとしたら、他事業を圧迫し他に必要とされる行政サービスが縮小していくことに繋がります。
2)及び3)置き雪がどうして作業も費用も市民負担なのか
前述の様な事情により、過去から現在まで多くの市民の苦情、要望があったとしても抜本的な解決には至らず、現在も「市道除雪は車両の通行(緊急車両を含む)を確保する意味合いでの車道かき分け除雪」という位置づけとなり、間口に置かれた雪は、本当に大変かとは思うのですが、市内全域でそれぞれ地先の市民の皆様が担うことで「豪雪地の日常生活が保たれている」ということになります。
4)民地の雪を道路に出している場合
残念ながら私的・商的問わず、駐車場などから道路に雪を出している事例や、敷地内の雪を道路脇の雪山に押し付けるなどの事例があることを認識しています。
これは札幌市のサイトでまとめている根拠法令・条例を参考に見てみれば
〇道路法 (昭和二十七年六月十日 法律第百八十号) (道路に関する禁止行為) 第四十三条 何人も道路に関し、左に掲げる行為をしてはならない。 二 みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること。 (罰則:第百二条第三項 一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金 |
○道路交通法 (昭和三十五年六月二十五日 法律第百五号) (禁止行為) 第七十六条 3 何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。 (罰則:第百十九条第一項第十二号の四 三月以下の懲役又は五万円以下の罰金) 4 何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。 七 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が、道路における交通の危 険を生じさせ、又は著しく交通の妨害となるおそれがあると認めて定めた行為 (罰則:第百二十条第一項第九号 五万円以下の罰金) |
○道路交通法施行細則 (昭和四十七年十一月二十日 北海道公安委員会規則第 11 号) 第 19 条 法第 76 条第 4 項第 7 号の規定による道路における禁止行為は、次の各号に掲げるものとする。 2 みだりに交通の妨害となるように道路にどろ土、雪、ごみ、ガラス片その他これらに類する物をまき、又は捨てること。 |
札幌市のホームページより
とあり、雪を道路に出すことは法律違反と捉えることができます。また道徳的に考えても、非常に利己的な行動であるとも言え大変残念に思っています。
ただ、当事者にとっては「仕方がない」「これまでもずっとやってる」「当たり前」「etc.・・・」と、当事者にとっての正義があり、「◯か✕か」「白か黒か」では割り切れない人間社会の縮図とも言える難しい課題です。
ただ残念なことに警察もこれらを積極的に取り締まることはされておらず、行政を含め出来ても指導レベルで、現時点では「やったもん勝ち」の要素が強く、個人のみならず民間の間口処理等請負業者を含め、少しでもこのルールの徹底を図り、そうした行為そのものが恥ずべきことという社会価値を醸成していく必要があると考えています。そのためには多くの市民の皆様と共に条例を作るなどルールの明文化を図っていくことが必要ですが、予期せぬ分断や感情的な対立を煽ることの無いよう一定の慎重さを要するものとも感じています。
5)融雪溝を整備できないか
他の市町における融雪溝も、幹線や一部のエリアでしか整備されておらず(ご提案の倶知安町で約7km)、市中全域に対応することは不可能かと思います。もし何らかの事情で一定の財政的な課題がクリアされ、岩見沢市で新たに融雪溝を整備することとなっても、住宅街まで隅々張り巡らせることは難しいこと、地先の費用負担等で不公平感や別の様々な課題が出てくるであろうこと、そして何より、実は岩見沢は開拓の頃から水量が不足して大変な思いをしてきた地域(よって明治41年に日本全国で13番目の早さで上水道が整備されています)であり、現に利根別川消流雪事業といって、道路排雪を利根別川に投入する事業では、水量が足りず幾春別川から大きな電力を使って水を汲み上げている状況です(これも大変なため、近郊の一部の道路排雪を実施する必要最小限しか稼働していません)。これらの状況を鑑みると、既存の熱源や豊富な水量に恵まれていない岩見沢では融雪溝の整備は非常に難しいと考えています。
6)岩見沢市が何十年もやり方を変えられない理由
これまで記載してきたとおり、やはり費用と人材の確保が非常に難しいことがわかります。
しかしこれでも除排雪に関する体制は大きく進化してきています。現に除排雪の当初予算は平成25年では約8億円だったのが、令和6年度当初予算(案)では14.9億円となり、燃料費や人件費の高騰を考慮しても、かなりの充実がなされていることがわかります。市道用雪堆積場の増強や、直轄機動班の充実などもあり、以前は幹線道路の排雪作業もここまで丁寧には行われていませんでした。
実は私自身、議員になる前は建設業の一員として、実際に路線除雪の責任者として従事していた経験があります。それら様々な事情を勘案した中で、約7万5千人の人口規模、しかも豪雪地でここまで除排雪がしっかりされている自治体は岩見沢の他には存在しないと確信しています。先日の強烈な暖気でも、札幌市ではあらゆる道で車両がスタックして埋まっている状況が頻発していましたが、岩見沢市内では目にしていません。
*札幌市は幅員8m以下の道路は原則除雪が入らず(それでも一晩の除雪延長は約5,400km)、降った雪は常に踏み固められるので、すれ違う車同士で両脇の雪が高くなり、すり鉢状の断面を形成し非常に危険な状況になります。札幌は札幌で〈大都市ゆえの悩ましい現実〉がありますが、単純に除排雪だけを比較すると岩見沢市の除排雪体制は本当に優れていると思っています。
*札幌市の状況〈札幌_スタック〉等でSNS検索すると色々と出てきます。
しかし、岩見沢市の除排雪体制がこの様に着実に充実してきても、今回のお問い合わせにあった【間口処理】という面では残念ながら劇的な変化をすることはできていません。近年は、雪の処理を自力で行うことが難しい高齢者や障がい者に対して「屋根の雪下ろし」「間口の置き雪除雪」「定期排雪」に要した費用の一部助成が実施されている部分はありますが、これも今後の高齢社会に向け、更に希望者が増えることによって、必然的に行政負担が増加すことを考慮すると、先日の新病院建設に対する「財政と人材不足の懸念」と同様に、やはり今後、著しい社会変化に見舞われる時代において、自治体運営は大変な難しさを抱えていると言わざるを得ません。
最後に
なかなか言いにくいことですが、既存のあらゆる情報や要素を加味し今後の社会情勢を考えていくと、行政サービスというのは今現在が最も充実していて、これから先は全体最適の視点で取捨選択をすべく、「出来ない」ことを市民に伝え、一緒になって「やらない」ことを含め優先順位を選択していくのが政治の役割になっていかざるを得ないと感じています。
もう少し時代が進行すればDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、より少ない人材で大きな効果を得られるようになるのかもしれませんが、現時点ではなかなか楽観的な見方はできそうにありません。
よって、こういった社会変化に対する行政課題は一人でも多くの市民の方々と共有し、共に考えていかなくてはならない問題だと考えています。私もできる限りそういった状況を学ぶとともに、機会をみつけてはお伝えしていけるように努めていきたいと思っています。
また、今回の間口処理の様な課題も、私の中では解決策が見つけられないことも、市民の方々のアイデアや工夫により実現できる可能性もあると認識しています。何かあれば、ぜひお気軽にご意見をお寄せいただければ幸いです。
最終的には市民の皆様が「幸せ」を享受できる環境づくりこそが、持続可能な岩見沢に繋がるものと思っています。明確に遅れを実感してきた世界情勢の中の日本の立ち位置や、いつきてもおかしくないと言われる大震災への懸念、経済成長を肯定できなくなる世界的な気候変動への懸念など、色々なことが急速に変化してきています。
その中でどこに「幸せ」の基軸を据えていくのか。
除排雪にしても、様々な幸せの定義の中にあると思われる「適度に人に頼ることができて、適度に人に頼られることがある」という環境面においては、プラスに作用することも多々あるとも感じています。そしてこれは除排雪のみならず、あらゆる共助の中に存在するとも感じています。
次の世代にバトンを渡す私達としては、きっとこういうことを様々に考えながら前に進んでいかなくてはならないのだろうと朧気に考えています。
今回の要望に対し、なかなか明確な答えにはなりえませんが、改めて多くの人と考えていけたら良いなと思っています。
拙い長文をお読みいただき誠にありがとうございました。
付録
以前、除排雪の疑問等に対し、様々に記載した投稿があります。もうかなり古いので記載している金額などは現在と乖離がありますが、考え方は基本変化していないものと思います。お時間ありましたらご覧ください。
また、岩見沢市では〈冬のくらしガイドブック〉という資料を発行しています。こちらもお時間あるときにお目通しいただければ幸いです。
https://www.city.iwamizawa.hokkaido.jp/material/files/group/62/huyunokurasi.pdf